自然分娩であれば、田舎の産婆さんでも問題ないわけであるが、今回は事前の検査で帝王切開しなければならないことが分かり、田舎では整った設備がないこともあって、サイゴンまでやってきたのだが、病院といってもピンキリで、金の出しようによって、待遇は天と地ほどの開きがある。弟夫婦もあまり金がないようで、何とか安く済まそうといろいろ考えていたようだ。
サイゴン近辺で名の知られている病院としては、Cong Quynh通りのTu Du病院、Bui Thi Xuan通りの国際婦産病院(SIHOSPITAL)、Hung Vuong通りのHung Vuong病院がある。
このうち、SIHOSPITALは他と比べて設備が飛び抜けていて、庶民にはとても手の届かない存在のようである。ここでは帝王切開による出産、その後5日の入院で7~8百万ドン。病室は一人部屋1日35万ドンと、安ホテル並なので、内装も日本の平均的な一般病棟よりきれいだった。旦那がルフトハンザ航空勤務のドイツ人もここで出産していたので、たぶん産婦人科として外国人にとっても問題のない病院なのだろう。そういえば病院内でもよく外国人を見かけたことがあった。
Tu Du病院とHung Vuong病院はともに国立なのだが、後者のほうが幾分ましのように見える。Hung Vuong病院は、老朽化のため建て直していたものが、このほど一部の改築工事が終わったので、新病棟の方はかなり清潔そうだ。ここでは前述した国際婦産病院(SIHOSPITAL)とほぼ同じ内容で3百万ドン強だそうだ。旧病棟はエアコン付二人部屋の場合、部屋代30万ドンを折半する。もちろん空きがあれば貸切も可だ。ただ、ここを二つの家族で使うのは少々窮屈に感じる。新病棟はまだ完全に使用されていないようだが、工事はすべて終わっているようなので、近いうちに旧病棟から人が移されてくるのかもしれない。その時は、設備に見合った患者の負担も増えるかもしれない。
最後にTu Du病院だが、ここは最悪だった。出産待ちの病室を見たときはインドの安ドミトリーを髣髴とさせるものがあった。病院にいながら健康な私の方が何か変な病気になるのではないかと心配になるほどだった。ここは他と比べると格安ということもあり、ベトナム人はここに押し寄せる。もちろんベトナム人にとってはそれなりの出費になるわけだけど、瀕死の状態で担ぎ込まれでもしない限りここはちょっと遠慮したい。
弟夫婦に付き添い、最初にここに行って検査をした。午後3時に受付をしてから、検査が終わった時には時計の針は既に9時を回っていた。その後指定された出産待ちの病室に行ってみると、10畳ほどの部屋に6台のベッドが隣の患者の鼻息がかかるほどの距離で並べられていた。看護婦の「少ししたら用意する」ということばを信じ、不思議に思いながらしばらく待っていると、なんと病室の外にベッドを用意し始めるではないか。しかも海水浴で使うデッキチェアみたいなのを(病室内のベッドもこれなのでそれはいいとしよう)。しかしもうすぐ出産だというのに廊下に寝るなんて、これには本当に驚いた。いわゆる廊下ではないか。というより廊下は外廊下になっているので、それは、外だ。そうだ外なのだ。その上、廊下には付き添いの家族がゴザを敷いて寝ていて運動会か野戦病院と化している。
弟夫婦はここで何とか耐えることに決めたようだが、さすがにこれを見たときは可哀想になって連れて帰ることにした。
サイゴンで出産する場合、設備に関しては金次第というわけだ。しかし、医師の技術という点ではどこも変わらない。知った風な口を利くようだが、なぜなら、医師が複数の病院を掛け持ちしていることが多いからだ。つまり、病室の設備は最低でも、医療器具に関してはどこもそれほど変わりないようで、前出のTu Du病院であっても手術ということに関する限り、それほど心配はないようだ。
産婦人科に限らず多くの医師は、帰宅後や休日に自宅で開業医をしていることも多い。訳のわからない路地にある家に、「○○医院、診療午後6時から」とか書いてあるのを見かけるのはそのためだ。
��国際婦産病院(SIHOSPITAL))
その他の点で、気になるのは看護婦の対応だろう。これは、入院費と確実に連動しているように思われる。国立の病院では、賄賂を渡さないとシーツも取り替えてくれないらしい。まぁ、外国人が現在の国立病院にはあまり行くことはないけど。
見た目最悪な国立病院ながら、関係者によく話を聞いてみると、実際のところもっとも扱いがひどいと思われているTu Du病院が技術的には確からしい。市内最大つまり国内でも最高峰の国立ということで、政府もそれなりのてこ入れをしているのだろうか。内部に知り合いがいる場合は実はここが最もお薦めだと別の病院の看護婦が教えてくれた。前述のSIHOSPITALのある医師の身内もTu du病院で出産したそうな。これ本当の話。
それにはある理由があるようだ。SIHOSPITALは設備は一流だが、技術は三流らしいのだ。近頃そこで子宮内の簡単な手術を受けた患者が、どうやら医療ミスが原因で出血多量で亡くなってしまい、病院側はそれを隠蔽するために遺族に口止め料として相当な額を支払ったというのだ。公にはなっていないが、これはその病院に勤務する看護婦から直接聞いた話だ。
そんなわけで、内部に知り合いがいて賄賂を渡せるならTu Du病院も捨てたもんじゃない。それでも外国人は行かないと思うけど。
その後、妹は無事男の子を出産した。2,800gのちいさな赤ちゃんだったが、どうやら、どこかの阿呆が、妊娠中にたくさん食べると良くないと言ったことばを信じて空腹を耐えていたようだ。このことについては、出産後に家族からだいぶ怒られていたようだ。
ベトナムには、妊娠中に貝を食べると、子どもの唇が貝殻の形のように厚くなるので食べてはいけない、というわけの分からない迷信がある。
しかも結構信じられている。
【追記 2004/11/11】
ここではベトナム人が行きそうな病院を取り上げた。駐在員などの金のある外国人は、外国人しか行かないような病院で産むのが一般的である。外国人が行く病院もいろいろランクがあって、ガイドブックに載るようなところは本当にお高い。
5年程前に下痢の友人を教会前のSOSに連れて行ったことがあった。その時は、物凄い数の薬を渡されて100米ドルぐらい払ってたみたいだった。でも、そういうところは保険の手続きもスムーズなので、帰国後に支障もなくちゃんと金が戻ってきたようだ。
【追記 2005/01/30】
一月ほど前に国際婦産病院で出産した人がいた。設備の良さから出産費用もそれなりで、金に余裕のある人間が来るわけだから、大部屋ではなく個室がほとんどである。他と比べて料金がかなり高めの設定になっているのにはそれなりの理由があった。しかしそれも過去のものとなってしまったようだ。
料金が高いだけあって、他の病院ではあからさまに要求される心づけ、つまり賄賂が必要なかった。ほんの一年前までは。しかし、ベトナム人に金をせびるなというのは無理な相談であったようだ。今では他の病院と同じく、金を渡さなければシーツもタオルも取り替えず、個室のゴミ箱のゴミさえ処分しないのだとか。もともと金持ちが来る病院だからさらにたちが悪い。現在の相場は仕事を頼む看護婦一人当たりの相場が五万ドンだとか。入れ替わり立ち替わりやってくる彼女らに金を握らせなければ、すぐに態度に表され邪険に扱われるそうだ。
ベトナム人に規律を守らせるなんてことはあと半世紀は無理だろう。
��この記事は2004年2月29日、3月1日、3月2日に書いたものに加筆・修正しました。内容は当時のものです。)
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