ベトナムは周囲の半分を海で囲まれていて、ミーソンの遺跡で有名なチャンパは通商貿易で栄えたし、古い町並みで多くの観光客が訪れるホイアンも海の要衝として各国の貿易船が往来した。ベトナム中部はかつて海のシルクロードの途上にもあったことなどからこの国は紛れもなく「海の国」である印象を受ける。
しかし、食卓に出される魚は種類が限られ、その中でも川魚が多いように思う。正直言ってベトナムの魚料理には物足りなさを感じている。南ベトナムは東南アジア最大のメコン川を擁しているものの、この国を流れるメコン川ははるか遠い雲南の彼方から長い時間をかけて辿り着いた末の今まさに海に注ぎ出る河口部のみであるから、その水の色からも分かるようにそこに住む魚の味にはあまり期待ができない。
一方、海産物は近年益々重要な輸出品になりつつあるので、当然国民も良質な魚介類を日々口にしているのかと思いきや実際はそうでもないようだ。
理由はいたって単純で旨い物は価格が高すぎて庶民には手が届かないとのことのようだ。いくら同じベトナム人とはいえ、より良い買い手が見つかれば輸出にまわすのが世の常なのだろう。
最近テレビでよく耳にするのが「BASA」なる魚である。初めて聞いたときには鯖の間違いだろうと思ったのだが、確認したところやはりBASAであった。でもやっぱり見た目は鯖みたいだ。どうやらBASAはベトナムで養殖されているようで、昨今アメリカにも輸出されているそうである。本当に鯖であればわざわざ紛らわしい名前を付ける必要もないと思うので、見た目が似ていたので日本語の鯖の名前をもじったのだろうか。私には「鯖」と「BASA」の関係はわからない。味はというとあまりお薦めできるものでもない。しかし、先日スーパーで冷凍の鯖を買ってきたらそれはノルウェー産だったので、この国でも金さえあれば輸入品の魚を手軽に口にできる機会も増えてきたということなのだろう。
海の国ベトナムであるはずなのだが、先日、白身の魚料理を囲んで食事をしているある一団の中の一人が訊いていた。「これ、なんて魚?」。一人が鮭だと答えるとほとんど同時に、「そうだ。それだ」「この間テレビで見た」などとその一団は盛り上がっていた。
が、私は日本人として自信をもって言うことができる。それは鮭ではないと。
ベトナム人の魚に関する知識はその程度なのだ。
��この記事は2004年3月15日に書いたものに加筆・修正しました。内容は当時のものです。)